前編 – 松下哲学の伝承者・江口克彦×ノビテク代表取締役・大林伸安 対談 – 「上司の心得」4つのポイント

新着 前編 – 松下哲学の伝承者・江口克彦×ノビテク代表取締役・大林伸安 対談 – 「上司の心得」4つのポイント

現代の管理職にはプレーイングマネジャーとしての役割を求められることが多く、部下の指導に振り分ける心理的・物理的な余裕は少なくなる傾向にある。また、パワハラを恐れ、部下を叱る際に及び腰になる人も少なくない。そのため、部下の指導に悩んでいる上司は増える一方だ。 そこで今回は、かの松下幸之助のもとで23年間にわたって薫陶を受け、「松下哲学」の伝承者と呼ばれている江口克彦氏に、ノビテク大林との対談を依頼。部下をしっかりと育てられる「理想の上司」になるためのポイントを伺った。

対談者

よい上司になるには4つのポイントがある

大林 江口さんは、かの松下幸之助さんの側近中の側近でした。ですから、「松下幸之助流 人の育て方」については、誰よりも深くおわかりなのではないかと思います。また、『上司力20-部下に信頼される20の法則』(東洋経済新報社)など、人材育成に関するたくさんの著書もお持ちです。私の知り合いにも、江口さんの本を読んで勉強している経営者・管理職がたくさんいますよ。

江口 それ、ホント?(笑)。

大林 もちろんです!(笑) 先日、江口さんと一緒の写真をフェイスブックに投稿したら、たくさんの人から「あの江口さんとツーショット写真を撮るとは、どういうことですか?! うらやましい!」と嫉妬されたほど(笑)。そんな江口さんに、今日は「部下の指導法」や「上司のあり方」について教えていただきます。おそらく、世の管理職は興味津々でしょう。

江口 「教える」なんて恐縮です(笑)。でも、できるだけのことをお話ししようと思います。
まず前提として、企業にとって従業員のやる気を引き出すことは、とても重要です。

大林 そうですね。社内のモチベーションが高まれば、業績というものは自然に上向きになりやすいですから。

江口 はい。そこで大切になるポイントが4つあります。その4点さえ抑えておけば、管理職は「理想の上司」になれるのではないでしょうか。

ポイント1~方針を明確に示せ~

江口 1つ目のポイントは「方針を明確に示すということ」です。
上司の中には、進むべき方針や目標を明らかにしないまま、部下に仕事を任せる人がいます。
例えるなら、「北に進め!」などと伝えず、単に「とにかく進め」などと命じるのです。そして部下が南に進んでしまった後で、「なぜそちらへ行ったのだ! 本当は北に行くべきだったのに!」と言い出します。

大林 う~ん、これでは部下はたまりませんね。

江口 部下からすれば、一生懸命に頑張ったのに、なぜ叱られなければならないのかと不満を抱くでしょう。そこで上司は、まず、どこに進めばいいのかきちんと明示しなければならないのです。

大林 ところで、「方針」というものをかみ砕いて言うと、どんな要素があるのですか?

江口 大きくわけて3つあります。まず1つ目は「基本理念」。これは、その業務を何のためにやるのか。そして、どんな心構えで取り組めばいいのかという考え方・態度を指します。

大林 なるほど。例えば、ただ「北に向かえ」と命じられても部下は戸惑ってしまいますよね。一方、「できるだけ短期間で北に向かえ」、あるいは「周囲をじっくり観察しながら北に向かえ」などと伝えられれば、部下はそれに応じた対応ができるでしょう。それだけ、成果は上がりやすくなりますね。

江口 その通りです。
2つ目の要素は「具体的目標」です。これは、最も手近なターゲットと言えます。そして3つ目が「最終目標」となります。つまり上司にとって、「とにかく前に進め!」式の指示は厳禁。
「周囲をじっくり観察しながら(=基本理念)、3日後にA地点、1週間後にB地点を通過し(=具体的目標)、2週間後に最終地点Cという場所に到達せよ」のように、基本理念・具体的目標・最終目標の3つを明らかにして指示をすることが大事なのです。

大林 よく分かります。
どの会社にも企業理念や経営方針があって、経営者はそれらをよく理解してます。でも、何層もの管理職を経由するうちにぼんやりとしてしまい、一般の従業員にはうまく伝わっていないケースが珍しくありません。そこは大きな課題でしょうね。

江口 おっしゃる通りです。上司には全社の方針をきちんと翻訳し、部下にわかりやすく説明することが求められますね。

ポイント2~部下に質問をせよ~

江口 理想の上司を目指す2つ目のポイントは、「部下に尋ねること」です。

大林 そういえば、松下幸之助さんも「尋ねる経営」を大事にされていたと、何かで読んだことがあります。

江口 はい。松下幸之助さんという人は、部下や周囲の人にたくさん質問をし、集めた膨大な情報を頭のなかで整理しながら決断を下していました。
上司が部下に対して積極的に質問すると、双方にメリットが生まれます。まず部下は、上司から質問されることで、①「私は信頼されている」と自信を持てるでしょう。また、上司の期待に応えようと張り切り、さらに知識を身につけようと②勉強するようになります。一方の上司も、部下の話をきちんと聞くことで?信頼を勝ち取れます。そして、部下の話を謙虚に聞くことによって、?重要な情報を自然に集めることが出来る。

大林 確かに、上司・部下の両方にとっていいことばかりですね。上司はつまらないプライドを捨て、謙虚に聞く態度を持つのが重要なのだなあ。

江口 謙虚さは本当に大切です。一方、反対意見を聞いて顔色を変えるようではNG。松下幸之助さんはよく、「部下の反対意見は、目的に向かって進んでいく道の途中の落とし穴の位置を示している」と教えてくれました。いろいろな意見を聞くことで、将来陥るかもしれないトラブルを避けやすくなるのです。
ただし、質問するときに自分の考えがない状態ではいけませんよ。部下から「この上司は、自分の意見を持たない人だ」と軽んじられてしまいますから。

大林 自分の意見を持った上で部下の話をきちんと取り入れる「受容」と、自分の意見やこれといった考え方を持っていないのに、部下の意見を採用してしまう「迎合」は大違いなのですね。勉強になります。

江口 そういう意味で、「私は~だと思うけれど、あなたはどう思う?」と、自分の意見をしっかり伝えてから質問するやり方はいいですね。それなら「迎合」には陥らず、「受容」ができるでしょう。
ここで注意しておきたいのが、部下の意見を全て取り入れる必要はないということです。経営は多数決で決めるべきものではありません。多数決で事を決めていくなら、社長や上司は要りませんよ(笑)。仮に30人の部下に尋ね、全員が反対だったとしましょう。それでも、部下の意見を参考にして検討を重ねて自らが正しいと判断したら、経営者や上司は自分のやり方を貫くべきです。

大林 確かに多数決で経営のかじ取りを変えるのであれば、経営者なんていりませんからね。謙虚になって、部下をはじめとする幅広い人から意見を聞く。同時にそれらを参考にしながら、より正しい道を選ぶ。それらを同時に進めることが、上司には必要ですね。


江口克彦プロフィール

1940年、愛知県生まれ。62年に慶應義塾大学法学部政治学科を卒業し、松下電器産業(現パナソニック)に入社。67年、PHP総合研究所に異動して松下幸之助の秘書となり、以後23年にわたって薫陶を受けた、人呼んで「松下哲学、松下経営の伝承者」。PHP総合研究所ではリーダーとして急激な売上アップを実現し、2004年には代表取締役社長に就任。09年に退任した後は、脱官僚・地域主権・国民生活重視の実現を目指し、参議院議員として活躍した。現在は政治活動から引退し、政治・経済、経営、人材育成など幅広い分野で講演や著述活動を展開している。

江口克彦 講演講師プロフィールの詳細

大林伸安プロフィール

大林伸安人(ヒト)の成長を促し、組織の活性化を促進させる“やれる気請負人”。「仕事を楽しむ人材づくりと仕事を楽しくする会社づくり」をミッションステートメントとして、人材教育事業を展開。とくに、若手ビジネスパーソンからリーダー層まで、「分かりやすい」、「面白い」、「元気が出る」と評判で、リピート率も高く、「やる気」(モチベーション)だけでなく、「やれる気」にさせてくれると好評。人材育成の現場を熟知しているからこそのメッセージを伝えることができる講師。

大林伸安 講演講師プロフィールの詳細